介護サービスの充実
認知症高齢者のグループホーム(認知症対応型共同生活介護)とは、介護が必要な認知症のお年寄りが5人から9人程度の少人数でスタッフと共同生活を営みながら、認知症の緩和をうながすことを目的とした介護サービスです。
厚生労働省は、平成11年度で終了する「新ゴールドプラン」に続いて、新たな数値目標を盛り込んだ5カ年(2000年から2004年度)計画「ゴールドプラン21」を策定、この計画では、介護サービス基盤の整備、生活支援対策のための事業推進などの観点から、主に在宅サービス面での充実が図られています。着目すべき点は、2004年度までにグループホームを全国で3200ヶ所整備するとしていることです。グループホ-ムの増加・充実が急務であると厚生労働省が判断したことがわかります。
介護保険では、グループホームの建物自体はお年寄りが暮らす住宅とみなされており、そこで提供されるサービスのみを介護サービスとしていることから、施設ではなく在宅サービスとしての位置付けとなっています。
自立支援
グループホームの目的は「自立支援」です。普通の服を着て、家庭的な雰囲気の中で、普通の生活を営む。自分たちの食事はできるだけ自分で作る。認知症なのだから、できなくなっていることもありますが、能力に応じて無理のない範囲で自分自身でできることをしてもらうのが基本。スタッフも、お年寄りに何でもお世話してしまうのではなく、根気よく見守りながら、介護・支援をしていきます。実際には、お年寄りたちに自分でしてもらう方が時間も手間もかかることも多いですが、できるだけ自分でやってもらうことが実はリハビリになり、認知症の進行を遅らせる効果があるという考え方なのです。
小規模ケア
グループホームの入居者数が1単位9人程度までとされているのには合理的な理由があります。認知症のお年寄りは新しく出会った人を覚えることが難しく、長年一緒に暮らしてきた家族の名前すら忘れてしまうのです。大勢の患者が同じ部屋におり、看護婦も入れ代わり立ち代わりという病院のような環境では、お年寄りが日常的な人間関係を作るのは困難です。認知症高齢者の問題行動などもこうしたことが原因であることが多いのです。これに対し、9人程度のグループホームでは、時間をかければ、お年寄り同士でも、個性や雰囲気・体格などでお互いを識別し、馴染みの存在になることができます。また、スタッフも特定の少数の人が対応するのでお年寄りから覚えてもらうことができます。スタッフもお年寄り一人一人の特徴を把握しやすくなります。その結果、認知症のお年寄りでも密度の濃い人間関係を結ぶことが可能になり、お互いの信頼関係を築くことが可能になります。
このタイプのホームがグループホームと呼ばれるのは、スタッフがお年寄り一人一人にばらばらに向き合っていくのではなく、こうしたお年寄り同士の人間関係を尊重し、グループとして小さな社会を作って生活していくのを支援するという趣旨からきています。お年寄りたちは、いつも世話をされ放しの肩身の狭い存在ではなく、一人一人が何らかの役割をもつようになり、ときにはお年寄り同士で助け合ったり、連帯感を持ったりという局面もでてきます。そのことも認知症の進行を遅らせる効果があるとされています。
こうしたグループホームの小規模ケアの有効性が最近とみに注目をあびてきており、最近開設される特別養護老人ホームでも運営方針にこの考え方を取り入れる例が増えてきています。(「新型特養」とも呼ばれています)
個別性の尊重
グループホームには台所と広いリビングルームがあり、その周囲にお年寄りたちの居室が配置されるようになっています。居室は個室になっています。これには認知症の老人特有の問題に対する配慮が働いています。
認知症のお年寄りにありがちな、たとえば「お財布を盗られた」といった妄想に誰かが陥ったとき、共同の居室では他の老人が「犯人」とされてしまいがちです。あるいはひとりの老人が失禁し部屋を汚してしまった場合、共同の居室では他のお年寄りは不快になり、人間関係も損なわれかねません。個室ならそういったトラブルはかなり減らすことができます。「個室だと淋しいのではないか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。個室では自分のプライバシーを守り自分のペースで生活することができ、寂しくなって他の老人やスタッフと交わりたければリビングルームへ行くということで、生活のメリハリもつきます。皆でくつろげるリビングルームがゆったりと作られているのも、グループホームの特徴ということがいえます。